子供のいる男友達には共通の証言があった。
1つは、「うちの嫁さんのつわりはひどくなかった」という点。
もう1つは、「父になった実感がしばらくなかった」という点。
長い場合は、1年もの間、子どもがいることに対して違和感をもっていた人もいる。
病室のドアを開けると、生後3日目の赤ちゃんが新生児用のベットで微動だにせず寝ていた。
「あ、ホントにいた」
という単純な初対面の感想。
性別は、妻には知らせないよう頼んでいた。
将来、「なおすけと水戸ろうし」に分かれた桜田門外の変ごっこなんて、父のあほな趣味に付き合ってくれそうだと知っても、なんだかふ~んと思うだけだった。
友達同様、自分の内面は普段とほとんど変わらなかった。
翌日、親子3人で東京の自宅に帰った。
新生児は寝ているか泣いているかで、それほど豊かな表情は見せないと聞いたことがある。
しかし、横を向いてスヤスヤ寝ている息子の顔をじっと見ていたら、口角が上がって目じりが下がり、にっこりと微笑んだ。
あ、笑った、とは今度は単純には思わなかった。
そのとき、なぜそうなったのかはわからないが、
「俺の子どもだ」
という実感が、胸から脳にめがけて奔流のように上昇していくような、そんな感覚があふれた。
自分の命より重いもの。人生でそれを初めて抱いた瞬間だった。
生後5日目、息子の親孝行はすでに終わった。