これからの日本米

毎年人口が30万ずつ減る日本のコメ需要は、同8万トンずつ減少中。

 

 去年と同生産量では、コメが余る。農家の自主的な生産調整は困難だから、国が介入する。

 

 予算の都合で減反政策は曲がり角。しかし、とにかく「日本市場に出回る人が食べるコメを作らせない」ために、国はエサ米の生産にがっつり補助金を投じ始めた。

 

 エサ米は、稲穂がついたまま収穫し、エサ用として細かく裁断し、配合飼料に混ぜる。

 

本来1キロ10円という市場価格。しかし、

 

「あきたこまちを作るよりも手取りがいい」

 

というレベルの血迷った補助金投入で、秋田県大潟村などは一斉に日本最大級のエサ米生産基地と化す始末。

 

一方で、累計兆円規模の農家保護予算は子育て支援に使えよ...という不満が国民からなぜか出てこない(正確には出てこさせない)ところに、大人の世界のうす汚さがある。

 

不作という以上に、農協よりの極めて政治的な背景があり、平成29年産の米価は、前年比15%超の嘘みたいな値上がり幅。需要は毎年8万トンも減っているのに。

 

 政権からすればもちろん、保有預金残高100兆円、総会員数1000万人という、経団連と双璧をなす圧力団体の農協票をあてにした不満そらし。

 

そして、エサ米とともに注目を集めるのが、輸出用米。

 

外国米に価格対抗するには、生産効率を上げねばならない。単位当たりの収穫量を1.5倍に増やし、そこにさらに補助金を投入し、国際相場に対抗しうる米を生産させる。

 

コシヒカリ10m四方の収穫量が530550キロなのに対し、「あきだわら」「とうごう」「とよめき」といった多収品種は、8501000キロ前後の収穫量を誇る。実を限界いっぱいつけても稲株が折れにくい品種で、コシヒカリの1.31.5倍もの化学肥料を投じる。

 

堆肥や有機肥料といった、栄養豊富なコスト高の肥料は使わない。それに、玄米サイズをそろえることもなく、日本産品の生命線ともいうべき品質検査もせずに済ませる。

 

動物は、食物で健康や肉質がきまる。植物だって同じことで、これではおいしいものなんかできるわけがない。安さだけが取り柄のシロモノ。

 

コストダウンが至上命題だから、多収米はゲノム操作も当たり前になる。

 

危険性が指摘される遺伝子組み換えに代わって、DNAの塩基配列を限定的に変えてしまうゲノム編集が注目を集めている。しかし、DNAの全貌が解明されていない以上、予定外の塩基配列に影響を与え、人間にとって不都合なたんぱく質を合成させてしまうのではないか。

 

政府決定事項は、いったん進みだしたら止まらない。そういう低コスト生産の、アメリカナイズの日本米は、シンガポールにもアホみたいに輸入されてくる。

 

そして、89割以上の日本食レストランと在星日本人が、そういうインチキ日本品質に、「日本産」という幻想をもつようになる。マーケティング的にいえば、悪貨は良貨を駆逐し、コモディティー化した低廉ソコソコな商品に、デフレ社会下の消費者は慣れてしまう。

 

原価を落としたい日本の飲食店も、この類のコメを使う。そして、「当店では国産米を使用しています」なんて図々しい看板を掲げるのだ。

 

果たして、化学肥料超多投のゲノム編集米を、細胞分裂の活発な、一生涯の舌の価値観を決めてしまう子どもらに毎日食べさせていいのかと、少なくとも米屋の私は懐疑的。

 

ただ、多くの人は知らずにというか、「安い」という理由で、納得するのだろう。

 

でもたぶん、低農薬・低化学肥料のコシヒカリやあきたこまち、つまり、日本固有のお米の味や食感を欲する方々、その生産背景に関心のある方々も少数ながらいるはず。

 

現実、弊社のお米を買ってくれている皆さんは、まさにそういうお客さんなのだし、2:8のパレート法則をよりどころとして、稲造米穀店は、細々と続いていくだろう。