私たちが食べている動植物、あるは医療は、今後「ゲノム編集」によって、大きく姿をかえる。
自然界では何十億年、これまでの品種改良では5~10年とかけてほとんど偶然に頼っていた突然変異を、高度な技術を必要とすることなく、ほんの一瞬で成し遂げてしまうのが、ゲノム編集。
日本の農産物では、商業的価値の大きなコメがもっとも研究対象となっている。
なにせ国が大きな予算を割いているのだから、ゲノム編集されたコメが市場に並ぶ日もそう遠くない。
いままでは、農業試験場の温室で何千回と交配して生まれた優良品種が、あきたこまちやコシヒカリとして市場に出されていた。しかし、そのような奇跡だのみにちかい研究員たちの涙ぐましい努力は、もはや遠い日の花火となる。
米屋の責任としても、この技術のことを理解し、説明する義務があるだろうということで、学んでみたいと思った。
ゲノム編集は、何十年も前からあった遺伝子操作方法。「遺伝子とはDNAの連なりで構成された設計図」だということが判明して以来、科学者たちの編集理論の構築は始まっていただろう。
ところが、狙ったDNA配列だけをピンポイントで変えるが難しく、それほどの進化は見せてこなかった。
2010年代に入り、アメリカのジェニファー・ダウドナという40代の生化学者が、クリスパー・キャス9という、革新的技術を開発。ゲノム編集はいちやく世界中から注目を集める。
動植物の品種改良のみならず、人間のための遺伝子治療にも応用可能。ゆえに、天文学的な投資金が、雪崩をうってこの技術応用に集まった。
2020年代は、AI、自動運転、宇宙開発、そしてゲノム編集が、世界の文明発展を牽引する。その文明から取り残されたような街角の米屋でも、このゲノム編集には関係がある。
そこで、かいつまんだようなテレビやネット情報だけではなく、ダナウド博士が直接書いてみたものを読みたくなって、
「クリスパー・究極の遺伝子編集技術の発見(文藝春秋)」
を、アマゾンキンドルで早速購入した。
3人の共著であるが、ダナウド博士が読者に直接語りかけるような文体で、大変読みやすい。
ところが、DNAとはなにか?という解説から始まるのであるが、「塩基配列の二重らせん構造」「DNAがmRNAに複写」「RNA配列はアミノ酸に翻訳され、タンパク質を合成」と、おそらく高校生物あたりでやったのだろうが、最初の4ページくらいからついていけなくなった。
この本は素人向けだが、「高校レベルの生物知識がある素人」を前提にしている意味では、理解が乏しくなるはず。
で、まずはこのDANの複写と翻訳の「セントラルドグマ」なる一連の流れを理解していないと、ゲノム編集の具体的なイメージがつかみづらいということで、基本を学ぶことにしてみた。
お世話になったのが「家庭教師のトライ・オンライン講座」。
「DNAとは?」「塩基とは?」「ペプチド結合とは?」みたいに細分化した項目を、10分程度で丁寧に解説してくれる(しかも無料!)サイトで、ちょっと勉強してみた。
読んだだけではイメージしづらいが、さすがプロの家庭教師、図式入りでの解説が池上彰。
なるほど、DNAの塩基配列がメッセンジャーRNAに転写され、それがアミノ酸に翻訳されて、タンパク質が合成されるのか。
ゲノム編集とは要するに、この塩基配列を人為的にいじることで、生来の遺伝情報とは異なるタンパク質を合成してしまう、あるいは合成させない技術なんだな、ということはわかった。
基本中の基本をようやく抑えたところで、再び「クリスパー・究極の…」へと戻っていった。(つづく)