240万人の千鳥ヶ淵

 九段下から半蔵門にかけてのお濠を、千鳥ヶ淵とよぶ。

 この季節になると、お城からこぼれる満開の桜吹雪の下、お濠でボートを漕ぐのどかな風景が、ニュースに取りあげられる。

 今年は、昨年より1週間ほど早く桜が咲いた。私がいったときはすでに、葉桜がちらほらみえていた。

 千鳥ヶ淵の戦没者霊園には、大東亜戦争中、海外で戦死された無縁仏の、およそ240万のお骨が祀られている。

 蟻のはうすき間もない花見客の喧騒のすぐ横。訪れる人もあまりいない、墓地特有の緑豊かで荘厳な雰囲気が、そこにはあった。

 私の祖父の兄たち2人が、満州と戦艦陸奥でなくなった。そのうち一人の兄の妻だったのが、私の祖母。

 その後、神風特攻の出撃間際で終戦となった私の祖父と、戦後すぐに再婚。母をへて、私が生まれた。

 先の大戦が何百万~何千万組の夫婦の運命を変え、一方で新たな縁を生み、そして「いま」につながっている。

 千鳥ヶ淵に、私の血縁者は眠っていない。しかし、六角堂に菊を手向けて手をあわせたとき、そんな縁のことが頭をよぎり、ふとなみだがこぼれた。

 そして、日本でいちばん桜のうつくしい場所に、そのお墓があってよかったと思った。