1.5倍とれるコメ

 農協JAの会員数は1000万人、預金残高はみずほ銀行を凌駕する100兆円。

 この3年間、安倍政権は経団連と双璧をなすこの圧力団体に配慮、価格を吊り上げるために国内のコメ供給をしぼりにしぼった。

 コメは「お百姓さんが丹精込めた」政治作物だが、我々の業界では「コシヒカリ」「あきたこまち」「つや姫」などはA銘柄。

 一方、飲食店や加工食品で「国産米」という十把ひとからげで分類される、「日本晴」に代表されるコメをB銘柄とよぶが、値ごろ感のあるB銘柄が特に不足するようになった。

 値段重視のデフレ社会にも関らず、人件費高騰とともに原料高。外食・中食産業も、コメまで高くては利益がでない。

 外米を混ぜてみたり、コンビニおにぎりのようにサイズをちいさくして価格を据え置いてみたりと、値上げのごまかしでひと苦労。

 そこで、1円でも安いコメが欲しい外食・中食産業から大きな期待をあつめるのが、A銘柄の1.5倍もの収穫量が期待できる、C銘柄というべき多収品種米。

 A銘柄は、10メートル四方の面積から、平均550キロの玄米がとれる。

 たくさん収穫しようと肥料をやりすぎると、実は肥えるが、茎がその重さに耐えきれずにたおれてしまう。

 多収米は、同面積で800-900キロの収穫量がある。通常の1.5倍もの化学肥料を投与しても、茎が稲穂のおもさに耐えられるからだ。

 コメは、安価で手軽な化学肥料をやればやるほど、含有タンパク濃度があがり、本来の味をうしなっていく。タンパク質が水の吸収を阻害するためだ。しかし、多収米に味はあまり関係ない。

 安いコメ。つまり、低コスト化の実現とは、単位面積当たりの生産経費を、A銘柄の半分近くにまで落とすこと。ところが、安価な化学肥料をやって収穫量を増やそうとすると、稲の体質も弱くなって、普通は農薬投与量も増える。

 だからこそ重視される遺伝子改良技術。

 稲に特定の病気や害虫、雑草に耐性をもつ、バクテリアなど他生物の遺伝子を組み込む。あるいは、強くなるようゲノムを切り貼りして編集する。

 これまでまめに何種類もの農薬を使い分けていたものを、稲以外のすべての植物を枯らす1種類の強力な農薬をかけ、手間とコストを減らす。

 90年代後半から急速に広まった遺伝子を改変した作物の安全性は、まだ立証されていない。

 しかし、低コスト生産実現に向けた国内生産のための法整備も着々とすすみ、近年中に、日本でも遺伝子組み換えやゲノム編集の多収米が、普通に生産されはじめる。

 茨城はつくばの「農水省所管・農研機構」をはじめとする各地の研究所において、そういう新技術がさかんに研究されている。

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 格差社会ひろがる将来の日本人が食べるお米は、健康・安全意識の強い2割の層だけが非遺伝子組み換え・非ゲノム編集かつ低農薬・低化学肥料のA銘柄を食べ、中間層ともいうべきB銘柄は消滅。

 残りの層は、A銘柄よりずっと安い、上述のようなC銘柄ともいうべき多収米を食べるようになる。

 「おいしいお米」であることを放棄した化学肥料1.5倍、さらに、他生物の遺伝子を組み込んだ、安全性に疑問符のつく茎太な新品種だ。

 日本米は、コシヒカリではなく、もうすぐこの多収米が主流となる。

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 まいにち食べる主食が、本当にこれでいいのだろうか??

 コシヒカリ並みの食味、病害虫に強く、しかも多収で低コストを目指しているそうだが、ふつう、食味や安全性の高さと低コストは、相反する概念。

 しかし、政府のプロパガンダとマスコミのイメージ戦略で、大半の国民はいつものように丸め込まれる。また、補助金漬けの大半の農家も、そういうものを率先して生産する。

 もっとも、何を選んで子どもに食べさせるかは、消費者の自由選択ではある。