シンガポールは外食ばかり、あるいは家食でもテイクアウトの人が多い。
だから、シンガポール人には「食の安全」なんて、意識している人はほとんどいないのではないか。もっとも、安くて味が濃いだけのホーカー食に、安全性を求めること自体、間違いではある。
言葉はきついが、食品や食事の選択基準を「安さ」においている人は、国籍に関係なく、本当に関心外なのではないかと思う。
では値段が高ければ安全かといえば、偽装もあるから、そういうものでもないし、お金持ちの健康マニアだって、ガンにもアルツハイマーにもなる。
さて、90年代後半から紙面をよく賑わせ始めた、家畜への爆発的な伝染病。
食肉を安く生産するには、生産効率をあげなければならない。そのため、単位面積あたりの生産量を増やすため、隣の個体と体が接触するような高密度の居住環境が必要となる。
ただし、これには多大なデメリットがある。
一個体が病気しようものなら、飛沫感染、接触感染なんでもあり。その病気がたちどころに、舎屋全体に蔓延してしまう。
細菌性の病気は、エサに予め抗生物質を投与して防止する。ただ、細菌は変異して耐性を持つから、管理側はその薬の用法・用量をどう管理しているのだろうか。
もし、耐性菌のついた肉類を人間が食べて保菌してしまうと、その人間にも抗生物質が効きづらくなる可能性がある。
農水省は「徹底的なモニタリング調査を実施」しているということであるが、果たして万全なのであろうか。
抗生物質は、細菌の増殖を抑える薬。その細菌よりずっと小さな、細胞を持たないウイルス性の病気には、それが効かないからタチが悪い。
私の職業柄、農水省動物検疫所の「動検NEWS」からよく情報が送られてくるが、本当に世界中のあちこちで鳥インフルエンザウイルスが蔓延し、頻繁に輸出入がストップされている。
環境や福祉にはうるさい、EU諸国においてさえもそう。
鳥インフルのたいがいが、国境を越えてくる渡り鳥の排泄物からの感染。
2016年、日本でも全国で100万羽以上の家禽類(鶏やアヒル)が、この鳥インフルのせいで処分されたのだそうだ。
狭い鶏舎でぎっしり管理していると、安く生産できる反面、このような大量絶滅覚悟のデメリットもある。
鳥インフルにしろ、メキシコでパンデミックを起こした豚インフルが怖いのは、それが変異して人間に感染しないかということ。
その人だけで済めばいいが、人から人へと伝染するウイルスに変異する可能性がある。
日本では、中国農村部のように一般人が家禽類に触れることは稀なため、鳥インフルが人に感染することは考えにくいとのこと。
しかし、2011年の天変地異で、「安全です、重要なエネルギー源なんです」と市民に刷り込んできた原発神話は崩壊した。
実際、鳥インフルの予防ためには、コストはかかるが、鶏たちにとって快適な空間があるべきなのであろう。
ちなみに、ブロイラーでは何万羽という鶏が出荷を待っている。通常、ひよこから150日で成鳥の体になる鶏も、成長ホルモンの投与で、わずか28日くらいで出荷できるそうだ。
結局、安い肉って、そういう肉。
病気になりやすい環境を薬でごまかし、しかも、成長ホルモンを混ぜたエサを食べさせている。まあ、安い肉を得るためには仕方がないのだろう。
私個人、安全性が高ければ、肉類はもっと高くなってもいいと思う。鶏肉なんて、全部地鶏なみでもいいくらいだ。地鶏は外で放し飼いにして育てる。日本なんか耕作放棄地が広がっているのだし、場所は十分にあるのだけれど。
といっても、デフレ日本、物は安くて当たり前。世間としてはやはり受け入れがたい。
しかしせめて、どういう飼養管理のされた家畜なのか。
販売者が嘘偽りなく、きちんと表示する誠意を持つべきであるし、行政もそれを表示させる義務を課すべきではある。