和牛とWagyu

 日本三大和牛といえば、松坂牛、神戸ビーフ、米沢牛。

 

 この夏休み、その1つである山形県米沢市を訪問し、1人前8000円のすき焼きなるものにチャレンジしてみた。たぶん、シンガポールのオーチャードとかで同じものを食べると、500ドルとかするのだろう。

 

 薄さ2ミリ程度に切ったお肉は、入れ歯のないおばあちゃんでも大丈夫なほど、トロリとしている。「シモフリ」とはよくいったもので、赤身の中にまんべんなくサシが混じっている。脂肪のつき具合を偏らせず、あのように全体に散らすのだから、これはやはりすごい生産技術というべきなのであろう。

 

 世界的にも評価の高い和牛であるが、実際は米、豪、チリ、中国…と世界各地で生産されるWagyuの方が、世界では広く流通している。そちらの方がWagyuという世界ブランドになっているのだから、本物の和牛を普及させたい日本陣営としても、大変困っているらしい。

 

 本物とバッタ物の100グラム当たりの価格は半額から5分の1程度と爆安。ベトナム産あきたこまちの袋に堂々と「日本米」と銘打ち、シンガポールで日本米の半額程度で販売するのとよく似ている。普通の人は、あれを本当に日本産米だと思ってしまう。

 

 海外産Wagyuは、ほとんど運動させずに屋内で個体管理する、つまり一定の高品質を確保する日本の生産方法とは大きく異なる。米豪は広大な緑の放牧地で、赤身だらけの安価な牛と同じように飼育している。血統は同じでも、日本とは生産費がひどく異なる。

 

 また、父親が日本産和牛の血統であれば、母親はホルスタインでもアンガスでも何でもいい。日本では黒毛和牛×ホルスタイン等の雑種は「国産牛」とされ、「和牛」とはされない。和牛とは、血統書つきの筋目の正しい黒毛和牛のみを指す。

 

 「タカシちゃん、今日はお父さんにボーナスが出たから、フンパツして日本牛のすき焼きよ!」

 

と気合を入れてみたのはいいものの、それが黒毛和牛か、黒毛とホルスタインの雑種なのか、または食べ放題の焼肉屋でおなじみホルスタインなのかで、同じ日本産でも、値段も質もずいぶん異なる。

 

 「お母さん、国産でもホルスタインとの交雑種なんかやだ、フンパツするなら黒毛和牛にしてよ!」

 

と、デキの悪いタカシのやつが生意気にも反撃してきたら、

 

 「残念でした!今日は父・山田福、母・はなこの由緒正しい黒毛和牛です!しかも三大和牛の米沢産なンだから!」

 

なんて応戦してみてもいいだろう。お肉ごときに父母名までついていると知って、タカシくんも母のその気合の入りように茫然、もはやグゥの音も出まい。

 

 黒毛のすき焼きに小さな幸せを感じる、ホノボノ家族の一場面。おこづかいが4万円しかないお父さんなんかとても大事に食べるだろうから、黒毛和牛は食材の最高級品として、特においしく感じるのかもしれない。

 

 要するに、海外Wagyuはそこらへんの交雑種で、しかも屋外でノビノビ運動させながら草を食べさせて育てている。ワインを飲んだりクラシックを聴いたりしている、貴族のような黒毛和牛とは、住んでいる世界がちがうのである。

 

 ただし、黒毛和牛の血統が入り、海外の牛も肉質が大いに改善された。いってみれば、海外Wagyuはせいぜい日本のいわゆる国産牛と同レベル。だがしかし、その交雑種をWagyuというブランドで売り出すしたたかさ。値段もそこそことあって、100%黒毛だけを「和牛」と定める日本をしり目に、世界的な人気を得てもやむをえまい。

 

 売り出し方の巧拙が明暗を分けたようだ。交雑種を「Wagyu」とし、黒毛和牛をちがうブランドで販売するくらいでなければ、この劣勢は覆せないのかもしれない。