山形産のお米

 山形県の最南端は米沢市(よねざわし)。少し前に妻夫木聡主演の大河ドラマで一躍全国区になった。

 

 会津若松や福島市と隣接はしているものの、県境にはなんと2000メートル級の山々がそびえ、福島県へ行くにはかなり険しい山道を越えていかなければならない。

 

 南の会津若松へ行くには吾妻連峰、仙台へ行くにも蔵王連峰、新潟へ行くにも朝日連峰がそびえたつ。日本にこれだけ連峰に囲まれた土地がほかにあるだろうか。米沢は京都盆地など比較にならない、アルプスに包囲された盆地気候。夏は時折40度にも達し、冬は2メートル以上の積雪を記録する超豪雪地帯だ。

 

 ところで、イケメンイラストの影響か、伊達政宗がギャルの間で妙に人気らしい。仙台市が何匹目かのドジョウを狙って「まさむねくん」みたいな、ふぬけたユルキャラまで作ってしまった。だから、政宗は宮城県人だと錯覚してしまう。

 

 ところが、政宗は山形県米沢市生まれ。伊達氏は代々、この米沢を支配下においてきた。仙台出身かと思いきや「○○だっちゃ!」などと口が裂けてもいわない。米沢を拠点に2000メートル級の山々を越えて兵を繰り出し、奥州に覇を唱えたのである。

 

 戦国時代の東北地方は、仙台ではなく、米沢を中心に回っていたのだ。

 

 ところが、秀吉が天下統一し、軍門に下った政宗は米沢から宮城へ移転するよう命じられる。その代わりに米沢へ移ってきたのが、越後(新潟県)の上杉氏。正確にいえば上杉氏は福島の会津若松を拠点とし、妻夫木聡が演じた家老の直江兼続(かげつぐ)の所領が、山一つ越えたこの米沢だった。

 

 伊達時代に代わる新しい町割りを考えたのは直江兼続だし、平成の現在にもその名残が色濃く残っている。だから、政宗ではなく直江兼続が米沢市の父とされている。

 

 そのように、伊達や上杉、直江に前田慶次といった日本史にその名を刻んだ全国区のスターたちが雌雄を決した米沢。現在はひなびた地方の観光都市だが、寒暖の差が激しい盆地気候と、豊かな水源を有する超豪雪地帯という、全国有数の稲作適地である。さらには「松坂牛」「神戸ビーフ」と並び称される「米沢牛」という和牛ブランドも有している。

 

 稲作、畜産、観光と強力ブランドを有する自治体というのも、なかなか珍しいのではあるまいか。

 

 稲作適地ということで、この夏は米沢を拠点に近隣の稲作環境を調べてまわった。すると、米沢のすぐ西に飯豊町(いいでまち)があった。東北アルプスともいうべき2000メートル級の山々のたまものである豊富な雪どけ水と、そして昼暑くて夜寒い盆地気候が、「山形一」と謳われるお米を生産していることが分かった。新潟でいえば魚沼地方のようなもので、山形一なら日本指折り、つまりは世界屈指とみて間違いない。

 

 2015年産、つまり今年の冬から来年以降、弊社が販売するお米には、さっそくこの米沢近隣のコシヒカリとつや姫が参戦する。この土地の歴史的背景とあいまって、あきたこまちを食べなれた秋田県人の私も、ここのお米を食べるときは何やら歴史オタクがかもす妙な感慨がある。