シンガポールにおいて、日本からの米の輸入は難しくないが、肉類の輸入は大変。認定を受けた食肉加工施設において肉になったものしか輸入できないからだ。
この施設は、岩手、岐阜、群馬、滋賀、宮崎、そして鹿児島のわずか6県のみに存在する。施設は全部で17か所であるが、鹿児島には9か所も集中している。シンガポールで販売されている和豚や和牛は、このいずれかでお肉になったもの。
明治屋や伊勢丹の精肉コーナーでやたら鹿児島の黒豚が目立っているのは、ほかの県には認定加工施設がなく、輸出できないという事情も大きいのである。
さて、8月に帰国したとき、米を主な飼料として肥育された豚、ブランド名:米の娘ぶた(こめのこぶた)をとんかつで食べた。娘とついているが、お肉になるのは主にオスだと思う。これがこれが。脂身がたっぷりのって、80過ぎのおばあちゃんでもちゃんと噛んで食べられる柔らかさであるのに、なぜか脂っぽくない。
欧米から輸入された安い豚だとベトッとしたしつこさが残る。しかし、餌が米だとこうもやわらかくてさっぱりするものかと食べた瞬間ちがいがわかり、感動してしまった。過去にポークコンテストで農林水産大賞を受賞したというから、貫録がちがう。
山形は酒田市の平田牧場(ヒラボク)が昔から米豚生産で有名であるが、VS鹿児島黒豚をかかげ、豚も各方面でブランドが確立しつつある。もはや「今日は奮発して牛にしよう」などというのは今や昔で、ブランド豚も国産牛なみに高価になってきた。「国産牛」といっても実は黒毛とホルスタインのハーフだったりするから、100%黒毛和牛でなければ、ブランド豚を買った方が満足度は高いかもしれない。
さて、近年、日本政府は需要の落ち込む主食用米の生産を減らし、一方では農家の所得補償対策として、家畜用の飼料用米の増産させている。飼料用米は「多収品種」といって、質より量で1キロ10円程度の超激安米。これに何百倍かの補助金を出して政府が買い取り、農家を支えるという仕組み。
抗生物質やら成長ホルモンの混ざった餌を食べて育った米豪の牛豚に頼らず、さらにトウモロコシなどの輸入飼料に代えてこの国産米を豚や鶏に与え、肉質の改善と食糧自給率の向上、さらに農家の所得補償をやってしまおうという、ウルトラC的な農水省の方針なのであった。
高級ブランド化の高付加価値化こそ、やはり日本の生き残る道なのだ。
それはそうと、米を食べて育った豚ちゃんの肉質は素晴らしいという他はなく、クラシックを聴きながらビールを飲んで育ったセレブ和牛とともに、和豚もついにイベリコ豚にカツべく、世界で絶賛されるのではないかと確信する。
しかし、鹿児島牛、鹿児島地鶏、鹿児島黒豚と、鹿児島は燦然と輝くブランド畜産大国。加工施設も国際認定を取得して輸出体制もバッチリ。一方、山形県も米豚や米沢牛のようなメジャー級ブランドを有しつつも、なぜか認定施設がない。
大人の事情、結局は政治力の問題なのか。
参考:
日本三大牛 松坂牛(三重)・神戸ビーフ(兵庫)・米沢牛(山形)
日本三大地鶏 比内地鶏(秋田)・名古屋コーチン(愛知)・鹿児島地鶏(鹿児島)
日本三大豚 あぐー豚(沖縄)・もちぶた(群馬)・黒豚(鹿児島)