なめたけが大好きだ。
えのきだけをきつね色にして、甘酸っぱくして、トロッとしたあれ。
大学浪人時代、実家から送ってもらったなめたけと、そして同じくあきたこまちで、何食も食いつないでいたという思い出がある。卵かけご飯同様、なぜか飽きない。そうだ、なめたけは浪人時代の味なんだ。なめたけを食べると、あの最後の少年時代の日々が思い出されるんだ。
3年半いたニュージーランドでは見なかった。サケのフレークと共に、シンガポールの日系スーパーでは売っていた。
どわっ、バカ高い!なんで1本6ドル50セントもするんだ!うーん、悪い癖で、すぐに80円をかけて、1本500円って日本円換算して、日本の2倍以上してるよなぁ…と思うと、さすがに手も足も出ない。
紀伊国屋の本も、日本の2倍くらい高い。本はどうしても必要だから買うことがあるけれど、主食であるコメ以外の食べ物は何かしら代替品があるわけで、我慢はできる。
なめたけって、基本はご飯にかけて食べるもの。卵かけご飯と同じですよね。普通、このようなご飯に一品だけかけて食べるなんて食スタイルは、シンガポール人の食文化はない。
となると、購買者はほぼ日本人と考えていい。
なめたけはおそらく嗜好品で、甘酸っぱい分、好き嫌いが分かれるはず。日常的に誰もが買うというものではなく、どちらかというとマニア受けするのが「なめたけ」というご飯の上に乗っける副食物の本質なのではないか。
現在、シンガポールにおける日本人人口は約3万人。そのうち、お値段高めの日系スーパーに来る顧客層ってのがあるわけで、その人たちの中でなめたけ好きな人がどれだけいるか。
ぶっかけスタイルという豪快な食べ方から判断すると、愛好者は男性が主に違いない。豪快な点から推理すると、それは草食系男子の食べ方ではない。どんぶり飯をガツガツいく。ゆえに、それは清貧が美徳のゆとりさとり世代ではなく、やはり30代半ば以上の中年男性と見た。そして、その中で日本価格の3倍払ってでもなめたけが食べたい!!という人がどれだけいるかだ。
シンガポールに30人もいるのかな。熱烈ななめたけファン。
じゃあ、なぜ6ドル50セントなんだ。その30人の中に、果たして日本価格の3倍出してでもなめたけ!という人がどれだけいるんだ。日本並みとはいわない。でも、せめて3ドル50セントくらいでいいのではないか。
なめたけは納豆のように、広く海外在住の日本人に食されるわけでもなく、また、それゆえに海外生産も不可能であるに違いない。大量に輸入することも、まして生産を海外に移管することもできず、ゆえに日本国内生産され、少量輸入されてこなければならないというわけか。もっとも、納豆も1パック100円のものが300円くらいするんだけど。
それにしたって高い。どんぶり飯の上に、一気にビンの半分くらいかけなければ、なめたけ丼とは呼べない。それは貧乏学生でも食べられる100%大衆食であり、私の貧しかった浪人時代のかけがえのない思い出の味であり、ハングリーさを呼び起こす食材であり、決して高級食材にはなりえないのだ。
それは、「めぞん一刻」の五代さんが一生懸命ガツガツ食べるものであって、ライバルの三鷹さんが上品に食べるようなものではないのだ。
えのきだけだって、そんな食べ方をされていては、なめたけになった意義を失う。もっと豪快に胃に流し込んでくれ!なめたけはそう訴えているんだ。
6ドル50セントでは、なめたけが、なめたけでなくなってしまう。
こうなれば、米と共に、自らの手で輸入するしかない。一応、加工食品輸入のライセンスも持っている。なめたけを卸売価格で仕入れて、自分で輸入したあきたこまちにかけて、好きなだけ食べてやる。