デフレじゃない国

 町のどこに何が売っているのかをしっかり把握できるようになれば、生活はずっと便利になる。

 

 あのスーパーは何が安い、ここの電機屋はこういうセールをやっている等、日本はネットやチラシですぐにわかるのだけれど、シンガポールではそういうことがいまいちよく分からない。

 

 日本のように、巨大なホームセンターに行けば小さなネジからカー用品まで何でもそろっていたりするわけでもなく、店と地域の特色をしっかり押さえておかなければ、シンガポールはなかなかモノがそろわない。

 

 モノ、というのは、食料品やティッシュやオムツ、歯磨き等の簡単な日用品ではなく、家電製品であったり、あるいは、やや大きな家庭用品等々、そういった類のものが、それがシンガポールのどこで、どのような値段で売られているのかということ。

 

 シンガポールは国中ショッピングセンターとホーカー、それにマーライオンやカジノ、あるいは動物園といった金の力で強引に作り出した観光スポットしかない。歴史や文化も他の歴史ある国に比べると極めて浅く、スポーツも弱く、地政学的な利点とほぼ100%英語が通じるという点を除けば、本当に何もない国だ。

 

 ひとつの駅に必ず存在するショッピングセンターも、実は数社の系列しかなく、したがって、価格競争もほとんど見られない。どの商売であっても、寡占や独占は絶対によくない。どこへ行ってもほとんど同じ値段で、スーパーにおいても、フェアプライスという政府系スーパーとコールドストレージという香港資本のスーパーが7割以上のシェアを占めていて、当然のごとく、地域間あるいはスーパー間の価格競争みたいなものがまったくない。

 

 日本なら、人口30万人のひとつの市に、6店舗を展開するスーパー正直屋と、7店舗を展開するスーパーまるとくの間にだって、熾烈な競争がある。それが、人口520万人のシンガポールには、まったくないのである。

 

 だから、東南アジアだから安いだろうと思っていても、実際は日本のスーパーの方が既に全体的に安いのではないかと思う。日本も、都会のスーパーよりも田舎のスーパーの方が高いというし、他社を意識した価格競争が、いかに消費者にとってメリットのあるものなのかがよく分かる。

 

 ネットショッピングも、実はシンガポールではあまり盛んではない。日本やアメリカでは、既存の店舗がネットショッピングにお客さんを取られて、どんどん淘汰されていっている。ヤマダ電機は赤字に陥ったけれど、ヤマダ電機の店舗で実際にものを見て、価格ドットコムで値段を調べて、最安のところから通販で買うという消費者行動がもたらした赤字だといわれている。通販も価格競争が激しく、輸送業者も当然運賃値下げ競争をしているはずで、このデフレで微笑んでいるのは消費者だけなのではないか。

 

 そういう消費者行動さえも、シンガポールには気配も感じられない。なぜなのかはよくわからない。ネットショッピングは確かにあるのであるが、物理的な店舗の存在を脅かすものではまったくない。

 

 ショッピングセンターもショッピングセンターで、なぜこうも全部同じつくりなんだ、この人たちは、特色ある店作りを試みようとはしないのかといつも不思議に思っている。

 

 ちなみに、私は仕事上においても、シンガポールでビザを取って越して来たばかりという事情もあって、日本ではひとつの町にひとつは必ずあるホームセンターDIYコーナーみたいなところがシンガポールにあったらいいなと思っている。

 

 Home Fixというそれらしい専門店があることはある。しかし、店舗が小さすぎるし、店舗内にも使えそうな商品が展示しておらず、しかも無駄に高い。なぜこれだけ品揃えが悪くて、バカ高いテナント料を払って商売が成り立つのか、理解不能であったりする。

 

 日本のホームセンターに類似する大型店舗は、せいぜいFair Price Xtraフェアプライスエクストラという店舗くらいか。ほとんど駅に併設された好立地において、Julong Eastジュロンイースト、Ang Mo Kioアンモーキオ他数店舗あるようだ。

 

 ただ、品揃えはあんまりよくない。店員も適当なアルバイトばかりで、お客さんの見ている前で、ご飯を食べながらスマホに夢中になっている。日本のような売り場担当者に相談すればなんでも対応してくれる、みたいなことは、おそらくこの国家が滅亡してもありえないだろうと思われる。

 

 そういう、日本のサービス重視的スタイルは改めて凄いと思う。

 

  ひとつ、リーズナブルな価格で、ある程度のものが全てそろうとしたら、チャンギ空港となりのエクスポにある、1つの巨大なフロアを借り切って、文房具からたわしまで、ほぼすべてがそろうところだろうか。エクスポでは電化製品の大安売りも行っている。テレビやパソコン等、少々高価なものを買うとしたら、あそこで数ヶ月に1度開かれている家電製品の展示即売会が、おそらくシンガポールではベストプライスだろうと思われる。

 

 他の店舗の家電製品売り場は、まったく競争意識がなくて、値段もどの会社のどの店舗も、ほとんど同じようなものである。店員もベラベラ無駄話と、時間があればスマホをいじっているだけ。これも、ビッグカメラやヨドバシカメラの店員のように、自分の担当家電は、聞かれたらかなり専門的なところまで答えられるという人はおそらく絶無であると思われる。

 

 日本の店員というのは、たとえ同じ対価として賃金を受け取っていたとしても、間違いなくシンガポールの店員の2,3倍は価値のある仕事をしていると思う。

 

 もっとも、これはシンガポールの店員だけがこうだというのではなく、世界でも日本だけが特別なのだろう。