ブラッドフード

  ブラッドフード 

 

 

 競馬はブラッドスポーツであるが、毎日食べるコメもそれに近いものがあり、非常に興味深い。

 

 例えば、日本三大品種はコシヒカリ、ひとめぼれ、そしてあきたこまちであるが、ひぼめぼれは父にコシヒカリをもち、あきたこまちは母にコシヒカリを持つ。

 

 20年ほど前、ササニシキという品種が東北地方では栄華を誇っていたが、ササニシキの父方の祖父が農林1号、コシヒカリの父がまた農林1号。ゆえに、ひとめ&こまち姉妹の祖父も農林1号。本当に競馬の血統とよく似ていて、この「農林1号」という品種が、競馬でいうところのネアルコにあたる。

 

 その農林1号の何代か前に、明治32年に山形で誕生した「亀ノ尾」なる品種がある。食用米に限らず、酒米もこの亀ノ尾に連なる系統があるそうで、現在日本に流通するほぼすべてのコメには、この亀ノ尾の遺伝子が備わっているということになる。

 

 亀ノ尾は山形県庄内のある研究熱心な農民が、冷害の末に生み出した奇蹟の1株だったそうだ。その何十万株に1株のような奇蹟の遺伝子を、人々は今や世界中で食べられるようになった。

 

 コシヒカリは豪州、米国、ベトナムなど、あきたこまちは中国、米国でも生産されているため、コメ界のエクリプスこと亀ノ尾の遺伝子は、112年の時を越えて世界で生産されるようになったわけだ。

 

 ちなみに、「食味はコシヒカリほどではないが、どんな料理にも合う」とされたササニシキは、消費者に対して非常に人気のある品種であった。しかし、病気に弱い、冷害に弱い、すぐ倒れる…と大変育てにくかったため、弱点を克服した、ひとめ&こまち姉妹の登場以来、山形や宮城のごく一部で、こだわりある農家さんが細々と生産する品種になってしまった。

 

 今では、一部こだわりのある寿司店、どんぶり店などでようやく食べられる程度しか生産されていない。兼業農家全盛の昨今では、栽培が大変困難なササニシキなのであった。

 

 病気に対抗するためには風通りをよくし、稲株の密度を下げ、窒素肥料を多く使って収量も増やせないとのことで、これだけ聞いてもササニシキの生産は難しいということがよくわかる。

 

 致命的だったのが、作況指数72(昨年が104)という93年の歴史的大冷害。タイ米がどっと輸入された例の年。ササニシキは大打撃を受け、これをきっかけに生産量を激減させてしまった。

 

 というように、一口にコメといっても、品種の掛け合わせによって、それぞれの品種に様々な特徴が出る。「安けりゃ何でもいいや」という人にはどこのコメでも関係ないといえど、違いを知った上でコメと接すると、それを食べる喜びや楽しみが生まれる。

 

 そういう意味では、政治的作物の意味合いも強いコメは、舌で転がしながら悠久のときを味わう日本酒やワインともよく似ている。品種にうんちくを求めながら、その背景をかみしめつつ、丁寧に胃に落とすのである。

 

 「味」にその品種の違いが最もよくであるが、色、硬さ、病気への強さ、刈り取り時期、倒伏に対する強さ、冷害に対する強さ、高温に対する強さ、必要な日照時間…それぞれみんな異なるようである。

 

 競馬においても、血統は似たり寄ったりでも、距離適性やスタミナ、気性、体質…とそれぞれすべて異なった特徴が出てくるのとよく似ている。

 

 また、それぞれのコメの品種開発や販売においても、全てに「プロジェクトX」や「ガイアの夜明け」に登場してもおかしくないようなドラマがあり、その辺もまた興味深い。

 

 秋田県に生まれ、東北の物産を輸出していく以上、やはり主力商品であるコメに対する深い造詣は不可欠であり、肉体や魂を形成する主食に対する好奇心を同時に満たすべく、このサイトでそれを追求していくことができたらと思っている。

 

 競走馬にも、そこに携わる人々のドラマと、そしてロマンを秘めた血統のドラマがある。コメもまた同じで、そういうことを全て踏まえつつ、私はシンガポールにおいて、あきたこまちやひとめぼれを販売していきたい。