ごはんのおいしさを決めるものは、
1.品種
2.保存経歴、精米日からの日数
3.水
4.研ぎ方
5.炊飯器
主なものはこの5つです。稲造さんのつきたて厳選あきたこまちを買ったけど…おいしくない。でも実は、気温30度/湿度90%の冷蔵庫外に放置、無洗米と同様にほとんど研がず、さらに60ドルくらいの炊飯器を使っていたりすると、これはどんな有名品種でもおいしいわけがありません。
電子レンジで炊飯してみたり、鍋炊きで火加減の調整さえしないとなると、もはやサトウのごはん以外、自宅で米を食べるのは諦めたほうがいいでしょう。
さて、この項では、シンガポールではどんな炊飯器を選べばいいのかを考えてみたいと思います。
日本では最高12万円前後の炊飯器が販売されています。このクラスでお米を炊くと、さすがに1万円以下のものとはまったく違ったごはんが炊き上がります。
ただ炊飯するだけではなく、米全体に熱が加わるように米をジャーの中で踊らせる。パナソニックの「おどり炊き」というやつですね。http://panasonic.jp/suihan/spx/
三菱のジャーには、あきたこまちやミルキークイン等の品種に応じて炊き方を細かく変えるといった、にわかに信じられないようなものまであります。三菱・本炭釜http://www.mitsubishielectric.co.jp/home/suihanki/
保温性にも優れ、常に蒸気を噴射してかたくならないようにしているものもある。東芝には、12時間経っても炊きたてそのまま、なんてのもあるわけです。東芝・本丸釜
https://www.toshiba.co.jp/living/rice_cookers/campaign/index_j.htm
また、釜の形も各社それぞれ異なっています。個性的なのは、パナソニックのダイヤモンド釜、象印の極め羽釜南部鉄器モデル、http://www.zojirushi.co.jp/syohin/ricecooker/kiwamehagama2013/npws-tekki.html
そして東芝の本丸釜、このあたりでしょうか。
それぞれ、釜の特徴をうちだす芸術的曲線美を見事に表現しています。開発陣営の熱意と、ミクロンの凹凸でも指先で察知する、鋳物工場の社長たちのなせる業といえるのではないでしょうか。
本当にごはんの好きな人でなければ、こんなこだわりを持った釜を作るのは不可能です。「仕事より余暇が大切」なんて人には絶対無理。不惑を過ぎたおっさんになっても、少年がガンダムのプラモデルを作るような目をし続けられる人たちの夢と努力の結晶こそが、これらの超ハイテクジャーなのです。
きっと、各企業のエンジニアたち、そんなまなざしで開発に取り組んだのではないかと思います。我々日本人は、そんなおじさん少年たちの努力を、もっと尊ぶべきなのです。多分、本人たちは人生をかけた真剣な遊びをしているだけで、新幹線の運転手や映画監督やF1に参戦するトヨタのメカニックや…とにかく少年時代の真っ白なキャンバスに描いた夢を仕事にしている人々同様、仕事とはまったく思っていないことでしょう。
日本人は「お米をおいしく食べたい」と思う点では、世界のどの米食民族とも異なっているようです。旺盛な需要もあるから、こういったハイテク高級釜が生み出される。価値を理解した上で炊飯器に12万円も払う人は、中国の成金を除いては、おそらく日本人にしかいないのではないかと思います。
さて、これら日本の高級釜に共通した特徴があります。釜に厚みがあることです。持ち上げるとずっしりと重たく、そのまま他の用途にも使えそう。芸術的でさえありますから、使わない時は観賞用にリビングにおいておいてもいい。たかだか家庭用炊飯器のくせに、釜だけで1キロくらいの重みがあります。手のひらにその重厚感がずっしりと伝わってくる。
一方、1万円以下の安価なもの、あるいは業務用の20合炊きくらいの巨大な炊飯器は、釜がプラスチック製のペラペラなものです。1万円以上であっても、高級釜の半分以下の厚みしかありません。これではあまりおいしく長けないし、3時間くらい保温しておいただけで、ごはんはバリバリになってしまうかもしれません。
シンガポールにおいて、日本と同じレベルの炊飯器を求めようにも、おいていません。市場が小さすぎて売れないからです。日本レベルの釜を求めようと思ったら、日本から3,000ワット対応の巨大な変圧器と一緒に持ってくるしかありません。電器店においてある炊飯器は日本よりもレベルが落ち、さらに同レベルのものを比較しても、日本よりも高額です。
そんな中でも、釜ができるだけ厚いものを選ぶと、間違いが少ないです。高性能コンピューターがどうだ、ダイヤモンドがどうだ、銅版がどうだといっても、釜の薄いものは結局ダメです。
予算を大体300ドル以下と一般家庭レベルで考えると、もっともコストパフォーマンスがいいのは、東芝のRCモデル。http://www.fortytwo.sg/toshiba-rice-cooker-rc-5msis-0-5l.html
私自身もシンガポールではこれを使っています。ちなみに、私と東芝の間には、何の利害関係もありません。純粋に「いい商品だ」と思っているだけです。
象印、日立、タイガー、パナソニックと同価格帯の釜と比べると、倍以上は厚みのある釜をしています。500ドル前後の高額なものでも、釜に厚みがないものは、値段ほどの価値を提供してくれないと思います。一方で、この東芝のRCモデルは150ドル前後とかなり求めやすくなっています。東芝の釜といってもブランド力は弱く、そういう事情もあるのでしょう。
炊飯器ではマイナーなシャープ製にも、釜に厚みがあって、200ドル以下のものがあります。意外にもティファールやフィリップスといった欧州系企業の炊飯器にも厚みのある釜があります。「ヨーロッパの釜?はい?」で日本人に対する訴求力はありませんね。お米における歴史と伝統がない。
先にあげた名だたる炊飯器メーカーの同クラスの釜は、なぜこんなに薄っぺらいんだろう?と疑問に感じざるを得ませんでした。500ドルくらいの、釜の内部が「5層構造」といったもので、ようやく東芝クラスの厚みが出てきます。日本には7層構造までありますが、シンガポールにはありませんでした。
おいしいごはんを食べたいという方、毎日食べるものですし、妥協せずに選んでみてください。ただし、自分ではごはんを炊かないし、米の研ぎ方さえ知らないシンガポールの電器店店員のアドバイスは当てになりませんから、自身の選別眼が問われます。
じっくり見ていくと、各社の特徴がそれぞれ出ていて、似たようなものがたくさんあるテレビと違って選び応えがあります。
豆知識として、当たり前ですが、炊飯器の上蓋は毎日洗うことを忘れないように。ごはんに変なにおいがつきません。だから、洗浄しやすいものを選ぶことも大切。
また、私の経験上、最大炊飯量の80%までを限度に炊飯するとおいしく炊けます。すぐに冷凍保存するからといって、いっぺんに大量に炊くのはやめたほうがいいです。例えば5合炊きであれば、4合が限度のようです。容量に余裕ができて、米が釜の中でしっかり対流するからだと推測されます。