日本のお米を輸出し、現地で販売する上でいつも意識しているのが、やはりベトナム産のコシヒカリやあきたこまちです。
弊社の商品は本家本元秋田の、しかも特A産地である県南のあきたこまちです。しかし、同じ日本から来た日本米ではなく、外国産日本品種が最大の競合商品とみて間違いない。
アメリカ産は、小売においては値段もそれほど安くはないし、弊社の提示価格とそれほど変わるものでもない。価格差が1.5倍程度なら、日本人なら日本のお米を選択する傾向が強いと思うからです。なので、小売における競争相手ではない。しかし、シンガポールの大多数の日本食レストランにおいて、なぜかアメリカ産短粒種が使用されています。業務用においてはアメリカ産日本品種が最大の競合相手です。
多くの在星日本人の皆様においては、5キロ15-20ドルのベトナム産や豪州産のコシヒカリやあきたこまちを買うか、5キロで40ドル以上の日本精米の日本米を買うか、35ドル送料無料のシンガポール精米稲造米穀店、または高級路線の他を選ぶか、という選択になると思います。
炊いてから6時間もすると、相当に違いが出てくる日本米と外国産米ですが、炊き立てだけを比較すれば、我慢できないほど違うというわけでもない。外国産は日本米ほどツヤはないし、炊き上がりも綺麗ではないけれど、それも我慢できる。ってか、気にしない。なのに値段は倍以上違うのですから、「やはりベトナム産を」という選択は、至極妥当なものだと思います。
ベトナム産と日本産を価格のみで比べた場合、輸入経費も異なるでしょう。生産費で比べた場合、ベトナムは日本の5分の1程度かと思われますので、もう勝負になりません。それに、農協が牛耳る日本のお米は、政府や自治体の補助金がなければ、おそらく自力では輸出はできない。補助金次第で、農協系米のシンガポールにおける価格が決まるわけです。
独立系の零細企業なので補助金には全く縁のない弊社は値段の高い冷蔵コンテナを利用して玄米を輸入しているため、なおさら輸入経費がかかっています。(シンガポールに輸入されるほとんど全てのお米は、日本米でさえもコンテナ内が75度にもなるといわれるドライコンテナだと思われます。外国精米で、さらにドライコンテナで輸入するから、スーパーで買う日本のお米は美味しくないんです)
弊社も、品質に気を使わず、全部ドライコンテナで輸入すればいいのでしょうけれど、白米と違ってデリケートな玄米は熱で全滅してしまいます。それに、あきたこまちラブ男のポリシーとして、低品質なお米は提供したくない。
じゃあ、その高品質な精米したてのお米が、半額以下のベトナム産に勝てるのだろうか?というと、さすがに厳しい。市場には「やっぱり日本のお米を食べたい」と思う、私にとっては足を向けては寝られないありがたいお客様と、「質が落ちても外国産でいい」という人と、完全に二極分化されていることを実感します。
中間層の衰退が著しい日本は、今後この傾向に拍車がかかります。こだわりを持つ、日本米を食べたいと思うお客様は、日本人の2割から3割も残るのでしょうか。今までは日本米は1.2億人のために生産されていましたが、今後はその3割程度の消費者層に受け入れられるお米ではなくてはならないようです。
ところで、私にはNZで3年半過ごした過去があります。その時、食べていたのは豪州の短粒種や最高級を謳うカリフォルニア米でした。しかし、秋田出身で米にうるさい私としては、それらのお米は、ただただ胃に詰め込むだけのものでしかありませんでした。美味しいと思ったことは一度もない。シンガポールのホーカーの固くて味気のない米と同じで、食べて幸せを感じるようなお米ではなかったのです。
NZで日本のお米を見ることはありませんでした。仮にあっても、日本価格の2倍、カリフォルニア米の3倍もする値段だったら、多分買わなかったかもしれません。
しかし、日本のお米が、日本のスーパーとほとんど変わらない値段で提供されているのであれば、話は別です。大方の在外日本人は、外国通貨に日本円をかけて、すばやく円換算しているでしょうから、比較対象は日本の米価で、主婦ならその買い物感覚は男性より優れている。
日本の米価下落に伴い、日本のお米もずいぶん買いやすくなったと思います。弊社がシンガポールで目指すべき価格は送料無料での日本価格ですし(日本円で5キロ2500円前後)、現段階でもそれに近い価格設定です。値段を意図的に高くした妙な高級志向を目指さず、できるだけ多くの人に、日本で食べる日本米のように食べてもらいたい。
しかし、やはり外国産米を選択する在星日本人はかなりの割合に上るものと推定されます。
TPPで揺れる日本米市場ですが、未来の日本では同じことがおこるでしょう。どうしても日本のお米を食べたいという購買者層と、そんなに違わないんじゃないか、多少レベルが落ちても外国産米でもいいや、という購買者層です。中間はなしで、二極分化するのではないかと思います。
シンガポールでも、5キロ35ドルの弊社あきたこまちの下は、一気に5キロ20ドル以下のベトナム産ですから、中間がないのです。
ファーストフードやファミレス、大衆食堂的なところでは、シンガポールの和食レストランがそうであるように、ほぼすべて外国産米を使うようになるはずです。
牛丼のY屋さんは外国産と日本の古米をブレンドしたお米を使っているようですが、ちょっと食べられたものではない。一方、山形や栃木のハエヌキやトチニシキなんかを使っているS屋はとても美味しい。でも、いずれ日本のY屋化には拍車がかかるでしょう。
日本米を使うのは、シンガポールの和食レストラン同様、一定レベルのところだけ。日本晴レベル以下の日本米はまったく売れなくなり、全国を覆う水田は瞬く間に荒廃していくことは必定です。
日本の米の生産量は年間780万トンくらいです。これは、10年内に250万トンくらいになるのではないかと思います。そうでなければ米が余って仕方ないし、政府の買い支えにも限界がある。海外輸出1兆円達成のために、一体何千億円補助金つぎ込むんだという批判もでてくるでしょう。
農業者の平均年齢は70歳を越えているはずですので、10年もしたら、黙っていても日本の稲作人口は3割くらいに落ち込む。なので、「中の上」以上のレベルのお米を、少数精鋭の大規模専業農家が生産するという時代が、もうすぐそこまで来ています。そうならないと弊社も困る。稲作農家はそのレベルのお米を、外国産米とあまり違わない価格で提供しなくてはならない。カイゼンがいよいよ企業化した農業者にも否応なく求められている。
さて、秋田のあきたこまちが、その「中の上」的なレベルに残れるでしょうか。また、大規模化を推進し、生産費を落とせるでしょうか。弊社の仕入先である秋田県南部地方は、日本最高レベル特Aの産地に指定されています。産地ブランドもありますから、ここで生産されるお米は、努力次第でずっと残るでしょう。
今のところ、あきたこまちの全国的な知名度は、コシヒカリにつぐ第2位にあると思います。在星日本人の皆様も、あきたこまちの名前は知っている。外国で作られている日本品種も、コシヒカリと、そしてあきたこまちのみです。